引っ越しと隣人たち
入院して三週間。病室が変わってからも一週間が過ぎた。
それなりに症状が回復しているという診たてがあったからだとは思うが、回復期病棟に個室の空きがあるので看護師長から打診されたからだ。
急性期病棟を離れるには少しタイミングが早い気はしたが、病院で働いていた経験から看護師長と看護部長には逆らうべきではないと判断したので素直に応じた。
引っ越しは車いすで自分での移動。オペの時のようにベッドで寝ていれば看護師が運んでくれるわけではなかった。
看護師一人が病室に台車を持ってきて、荷物を乗せるように促された。
荷物はそれほど多い訳ではないけれど、なにせ片足が不自由な身。
立って歩くことができないので荷物を整理して台車に載せるのには意外に手間取った。
台車は新しい病室まで看護師が押してくれたが収納は自分で行った。
リハビリの一環として捉えられないこともないかもしれないが、一応自分は重症患者。
怪我で心身ともに弱っているせいか優しくされたかったのに。
美人で気立ての良い女性の看護師に甘えたかったのだが、そうは問屋が卸さなかった。
ちなみに急性期病棟の看護師は平均年齢が若く美人が多かったが、回復期病棟は年増の看護師が多い。
入院費がほぼ同じであるならば、損をしている気がする。
変な例えかもしれないけれど、ガールズーバーと熟女キャバクラくらい、急性期病棟と回復期病棟の看護師の雰囲気は違う。
急性期のときの病室はナースステーションの前だったけれど引っ越した先の病室はほぼ角部屋。
隣人が大人しく過ごしてくれれば穏やかな気持ちで療養できるのだが、なかなか上手くいかない。
急性期、回復期病棟問わず、入院している患者は個性的な人が目立つ。
急性期病棟のときの自分の隣の病室には床根おばさんが居た。
入院ベッドが硬くて眠れないからと病室の床に掛け布団を何枚か敷いて寝ていて看護師に怒られたそうだ。
彼女曰く、自宅ではトゥルースリーパーで寝ていたらしい。
自宅で毎日、高級寝具を利用していたら自分も療養ベッドに耐えられなかったのだろうか。
今の病室に移ってからの方が、厄介なご近所さんは増えている。
年寄りばかりのせいか早朝の4時過ぎから起き出す患者が多くて騒がしい。
回復期病棟に移っているのだからそれなりに症状は落ち着いているはずだろうに、病室の扉を開けたままで痛い痛いと騒ぎ続けるジイサンが居たが退院していった。
消灯時間を過ぎるとフクロウのように泣き出すバアサンには参った。
ぼけているのか痛みを紛らわすためなのか、それとも両方なのかはわからない。
ただ、個室で過ごしていても寝付けない日が多いのは確か。
退院できたら、また来るかもしれない入院生活費のためにしっかり稼ぎたい。
病室の相部屋なんて、とても耐えられそうにないから。